製造現場の品質管理を担当されている方から、こんなお話をよくいただきます。動画で分かりやすい作業手順書は作れた、ただ作成者や承認者の欄、改訂履歴が載っていないので、これでは正式な手順書として認められない、と品質部門に差し戻された、というご相談です。
現場にとって「分かりやすいこと」と、品質マネジメントの仕組みにとって「文書として成立していること」は、別の要件です。どんなに丁寧な手順書でも、誰がいつ作り、誰が承認し、どこをなぜ変えたのかがたどれなければ、ISO9001のような仕組みの中では使えません。本記事では、ISO9001に対応した作業手順書に必要な管理情報を整理し、作成の手間と両立させる進め方をまとめます。
ISO9001が手順書に求めること
ISO9001は、品質マネジメントシステムの国際規格です。細かな様式そのものを一律に定めているわけではありませんが、手順を定めた文書について、次のような「管理された状態」を求めています。
一つは、文書が承認を経ていることです。誰かが勝手に作って現場に流すのではなく、責任者が内容を確認し、承認したうえで使われている状態です。作成者と承認者が記録に残っていることが土台になります。
もう一つは、変更が管理されていることです。手順は設備の更新やルールの変更に合わせて変わっていきます。その変更を、いつ・誰が・どこを・なぜ行ったのかを改訂履歴として残し、今どれが最新版なのかを明確にしておくことが求められます。
ISO9001の観点で大切なのは、手順の中身の良し悪しだけではありません。その手順書が、承認を経て、変更をたどれる状態で管理されていること。この「管理されていること」自体が要件になります。
なぜ現場の手順書は要件を満たしにくいのか
現場で作られる手順書が、こうした要件でつまずくのには理由があります。
動画や写真をベースにした分かりやすい手順書ほど、作ること自体に力が向きます。手の動きや操作の順番を残すことに集中するあまり、作成者や承認者、改訂履歴といった管理情報は後回しになりがちです。見やすさと、文書としての体裁が、別々の作業になってしまいます。
Excelやドキュメントで管理情報を手作業で足している現場も多くあります。ただ、更新のたびに履歴を手で書き加える運用は負担が大きく、忙しくなるほど履歴が飛んだり、承認欄が空欄のまま運用されたりして、形骸化しやすいところです。監査の直前になって履歴をまとめて埋める、という話もよく聞きます。
つまり、要件を満たせないのは現場の意識が低いからではなく、分かりやすさと文書管理を同時に手作業で回すことに無理があるからだと、私たちは考えています。
要件を満たす手順書に必要な要素
ISO9001に対応した作業手順書として整えるとき、押さえておきたい要素を挙げます。様式は組織ごとに異なりますが、考え方は共通です。
- 作成者と作成日(誰がいつ作ったか)
- 承認者と承認日(誰が内容を確認し、使ってよいと判断したか)
- 改訂日・改訂理由(いつ、なぜ変えたか)
- リビジョン番号(版を番号で管理し、最新版を明確にする)
- 文書番号や対象工程(どの業務の手順かを特定できる情報)
最新版が一目で分かることが肝心: 監査でも現場でも、いちばん困るのは新旧の版が混在することです。リビジョン番号と改訂履歴で「今どれに従うべきか」が迷わず分かる状態にしておくと、品質のばらつきも、監査での指摘も減らせます。
これらの情報は、手順書の表紙や欄外にまとめて記載するのが一般的です。動画から作る手順書であっても、書き出す資料(スライドや文書)にこの管理情報を載せられるかどうかが、正式文書として使えるかの分かれ目になります。
作成の手間と両立させる
管理情報が大切だとしても、そのために作成の負担が跳ね上がっては続きません。両立の鍵は、版の管理を手作業ではなく仕組みに任せることだと考えています。
手順が変わったときに、その箇所だけを差し替えられる作り方にしておくと、更新のたびに一から作り直さずに済みます。あわせて、いつ・誰が・どこを変えたかが自動で記録に残る形にしておけば、改訂履歴を手で書き足す手間そのものをなくせます。標準化を進めたい工程から順に、この形に整えていくのが現実的です。
Flowbaseでの考え方
私たちが提供しているFlowbaseは、現場の作業を録画すると、AIが手順のまとまりごとに区切って手順書の下書きを作る仕組みです。分かりやすさの部分は、撮るだけで形になります。
版の管理については、手順が変わった箇所だけを撮り直して更新でき、バージョン管理で過去の版の履歴も残せます。「変わったのに直していない」状態を防ぎやすく、どれが最新かを迷わずに済みます。書き出すスライドに、作成者や承認者、改訂の情報といった管理情報を載せていく方向で、品質部門の要件に近づけられるよう進めています。
一方で、正直に申し上げると、改訂履歴のページを規定の様式で自動挿入する部分や、組織ごとの承認欄フォーマットへの対応は、お客さまのご要望をうかがいながら順次調整している段階です。ISO9001の運用は組織によって求める体裁が異なるため、御社の様式を見せていただいたうえで、どこまで自動化でき、どこは運用で補うのかを一緒に整理させてください。分かりやすさと文書としての体裁を、両方あきらめずに進めていく。そのお手伝いをしたいと考えています。
よくある質問
QISO9001では、決められた手順書の様式がありますか?
ISO9001そのものが、特定の様式を一律に定めているわけではありません。求められているのは、文書が承認を経ていること、変更が管理され、最新版が明確であることといった「管理された状態」です。具体的な様式は組織ごとに定めるため、まずは自社の品質部門が求める体裁を確認することをおすすめします。
Q動画から作った手順書でも、正式な文書として使えますか?
分かりやすさの面では動画由来の手順書は有効ですが、正式文書として使うには、作成者・承認者・改訂履歴といった管理情報を載せられるかが分かれ目になります。書き出す資料にこれらの情報を含められる形にして、品質部門の承認フローに乗せることが必要です。
Q改訂履歴を続けるのが大変で、いつも形だけになってしまいます。
更新のたびに履歴を手で書き足す運用は、忙しくなるほど止まりがちです。変えた箇所だけを差し替えられる作り方にして、いつ・誰が・どこを変えたかが自動で記録に残る仕組みにしておくと、負担を抑えて続けられます。手作業を減らすことが、形骸化を防ぐ近道だと考えています。