「業務を自動化したい」というご相談を、よくいただきます。ただ、実際にお話をうかがうと、その前段でつまずいているケースがほとんどです。誰が・どの画面で・どんな順番で何をしているのかが、担当者の頭の中にしかありません。手順が言葉になっていない業務は、自動化どころか、引き継ぎや教育すら難しいのが実情です。
そのため私たちは、出発点は「自律的に動くAI」ではなく、まず業務を見える化することだと考えています。Flowbaseは、その業務を行っている画面を録画するだけで、AIが手順・スクリーンショット・説明文を組み立て、業務マニュアルを自動で生成します。属人化と教育コストを下げる、現実的な最初の一手になります。
なぜ「マニュアル化」が先なのか
業務マニュアルというと、地味に聞こえるかもしれません。しかし、手順が文書になって初めて、その業務は人に渡せますし、改善もできますし、自動化を検討する土台にもなります。逆に言えば、業務の見える化ができていない業務をいくら自動化しようとしても、何を自動化すべきかすら定まりません。
順番で言えば、次のようになります。
- 見える化: 誰が何をやっているかを手順として残す
- 標準化: バラついていたやり方を、再現できる一つの手順にそろえる
- 改善: 無駄な工程や重複を見つけて手順を磨く
- 自動化の検討: その上で、どこを機械に任せられるかを考える
自動化は、この最後の段にあります。土台の「見える化」を飛ばして自動化から入ると、属人的なやり方をそのまま固めてしまい、後で作り直すことになります。
問題は、これまでマニュアル作りに時間がかかりすぎていたことです。画面を撮る、スクリーンショットを選ぶ、説明文を書く、体裁を整える、といった一連の作業が重く、これまで後回しにされ続けてきました。
録画するだけ、という設計
Flowbaseのアプローチは、シンプルです。
- いつもの業務を画面録画します。クリック・入力・画面遷移をキャプチャします。
- AIが録画を解析し、操作をステップに分割します。
- ステップごとに適切なスクリーンショットを選び、「何のための操作か」を踏まえた説明文を生成します。
できあがったマニュアルは、そのままお使いいただけますし、文章やスクリーンショットを編集することもできます。バージョンを残しながら更新でき、フォルダで整理し、共有リンクや公開リンクでチームや社外に渡せます。閲覧・編集の権限は、役割ごとに設定できます。海外拠点向けには多言語に対応し、研修で配る場合はPPTX(パワーポイント)として書き出せます。さらに、作ったマニュアルを根拠にしたチャットに質問すると、手順の中から答えを返します。
たとえば:問い合わせの一次対応をマニュアル化する
具体的な流れを、問い合わせの一次対応を例に追ってみます。あくまで仕組みを説明するための例で、特定の企業や実データではありません。
たとえば、ベテラン担当者が、顧客からの問い合わせメールを受けてから返信するまでに、次のような操作をしているとします。
- 問い合わせ管理ツールで該当チケットを開く
- 顧客情報を別システムで照合し、契約プランを確認する
- 過去の対応履歴を確認し、似た質問への回答を探す
- テンプレートを元に返信文を作り、上限・例外がないかを確認して返信する
この一連を、本人がいつも通りに画面録画します。Flowbaseはその録画を解析し、操作をステップに分割します。それぞれに「どの画面で」「何をクリックし」「なぜその操作をするのか」を添えた、スクリーンショット付きのマニュアルを自動で起こします。
ここで価値が出るのは、暗黙知の言語化です。「契約プランによって対応窓口を変える」「この条件のときは上長に確認する」といった、ベテランが無意識に行っている判断のポイントを、説明文として書き残せます。録画では拾いきれない判断の理由は、後から編集で補えます。
できあがったマニュアルは、新人教育にそのままお使いいただけます。チャットで「プラン変更の問い合わせはどう対応する?」と聞けば、マニュアルの該当箇所を根拠に答えが返ります。手順が変わったら、その部分だけ撮り直して更新すれば十分です。
なぜ今、見える化が急がれるのか
背景には、深刻なDX人材の不足があります。IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」によると、DXを推進する人材の「量」が不足していると回答した日本企業は85.1%[出典]にのぼります。大半の企業で、DXを進める人手が足りていないのが現状です。
人を増やして対応するのが難しいのであれば、限られた人の知識を組織の資産に変えていくしかありません。ベテランのやり方が本人の頭の中にとどまっている状態は、その人が抜けた瞬間に業務が止まるリスクそのものです。録画からマニュアルを作っておけば、教育の手間が減り、知識が個人ではなくチームに残ります。
属人化が放置されると、コストは見えにくい形で積み上がっていきます。教育のたびにベテランが手を止めて付きっきりで教える時間、引き継ぎ漏れによる手戻り、担当者の休みや退職で業務が滞るリスク。どれも「人件費」として帳簿には出にくいものの、確実に組織の余力を削っていきます。見える化は、この見えないコストを表に出し、減らしていく作業でもあります。
人を増やすのが難しいなら、限られた人の知識を組織の資産に変えるしかありません。録画からマニュアルにしておけば、知識は個人ではなく、チームに残ります。
RPA・マニュアル化・自律AIをどう使い分けるか
「自動化」と一口に言っても、アプローチは複数あります。代表的な3つを、強み・弱みで並べると、違いがはっきりします。
| 観点 | RPA | マニュアル化(Flowbase) | 自律AI(将来構想) |
|---|---|---|---|
| 何をするか | 画面操作を記録・再生し、機械が実行する | 人の操作を録画し、誰でも再現できる手順に残す | AIが判断を含めて業務を自律的に実行する |
| 強み | 大量・定型の処理を高速に回せる | 導入が軽く、教育・引き継ぎ・改善の土台になる | 人手をかけず判断業務まで任せられる(実現すれば) |
| 弱み | 構築・保守に手間がかかる | 実行自体は人が担う | 信頼性・説明責任・例外対応が未成熟 |
| 画面変更への強さ | UIが変わると壊れやすい | 撮り直して更新すればよい | (実装に依存) |
| 例外対応 | 想定外で止まりやすい | 例外時の判断を説明文に残せる | 判断を委ねられる可能性はあるが現状は不確実 |
| 現状の実現性 | 確立済み | 確立済み | 現時点では構想段階 |
RPAは効果が出る場面もありますが、UIが変わると壊れやすく、例外が出ると止まりやすいという弱さがあります。Flowbaseが今行っているのは、業務を機械に実行させることではなく、人がやる業務を誰でも再現できる形に残すことです。だからこそ、操作が変わってもマニュアルを撮り直して更新でき、例外的な判断も説明文として書き残せます。まず人の業務を見える化し、その上でどこを定型化・自動化できるかを考える、という順序になります。
3つは対立するものではなく、土台と応用の関係にあります。まず見える化して手順を整え、定型で大量の部分はRPAに寄せ、判断が要る部分は人が担います。自律AIは、その先の選択肢です。
録画→マニュアル運用でつまずく点
録画からのマニュアル生成は導入が軽い一方で、運用の設計を怠るとつまずきます。よくある3つを挙げておきます。
- 粒度が粗い/細かすぎる: 1本の録画に複数業務を詰め込むと、後から探しにくく更新もしづらくなります。逆に細かく分けすぎると本数が増えて管理が煩雑になります。「1業務=1マニュアル」を目安に、フォルダで整理します
- 更新されず陳腐化する: 業務や画面が変われば手順は古くなります。更新する担当と頻度を決めず作りっぱなしにすると、現場が「どうせ古い」と見なくなります。バージョン管理を活かし、変わった部分だけ撮り直す運用にします
- 撮り直しの運用が決まっていない: 「誰が・いつ気づいて・どう直すか」が曖昧だと、画面変更のたびに放置されます。マニュアルの所有者を決め、変更が起きたら撮り直すフローを業務手順に組み込みます
これらはツールの問題ではなく、運用設計の問題です。逆に言えば、最初の設計さえ押さえておけば、陳腐化はかなり防げます。
つまずきを防ぐコツ: マニュアルの「所有者・更新頻度・粒度」の3点を最初に決め、作成と更新を日常の業務フローに組み込みます。マニュアルを「作る業務」ではなく「業務の一部」にしてしまえば、わざわざ整備の時間を取らなくても、手順は最新の状態に保てます。
これからの方向性
業務自動化そのものへの関心は、私たちも持っています。判断を伴う業務までAIが担えるようになれば、現場の働き方は大きく変わるはずです。たとえば問い合わせ対応で、定型的な一次対応を機械に任せ、担当者が難しい案件に集中する、といった姿です。
ただし、それは構想であって、現在のFlowbaseの機能ではありません。今できるのは、録画からAIが業務マニュアルを自動生成し、属人化と教育コストを下げることです。ここを着実に積み上げることが、その先の自動化への一番確かな足場になると考えています。
よくある質問
QRPAを入れる前にマニュアル化する意味はありますか?
あります。RPAは「自動化したい手順」がはっきりしていて初めて構築できます。手順が見える化されていないままRPAを組むと、属人的なやり方をそのまま固めてしまい、後で作り直しになりがちです。先にマニュアルで手順を整え、定型部分を見極めてからRPA化すると、構築も保守も無駄が減ります。
QAIが自動生成したマニュアルは、そのまま使える品質ですか?
操作の手順とスクリーンショットは録画から自動で組み上がるため、土台はそのまま使えます。一方で「なぜその操作をするのか」「この条件のときどう判断するか」といった、録画に映らない暗黙知は、編集で補うとマニュアルとして格段に役立ちます。AIが叩き台を作り、人が判断の理由を足す、という分担が現実的です。
Q業務の画面が変わったら作り直しですか?
全部を作り直す必要はありません。変わった部分だけを撮り直して更新でき、バージョンを残せるため、いつ・どこが変わったかを追えます。ポイントは更新を運用に組み込むことです。マニュアルの所有者と更新タイミングを決めておけば、画面変更があっても陳腐化を防げます。
出典・参考
- DX動向2025(情報処理推進機構(IPA))引用: DXを推進する人材の「量」の確保について「やや不足」「大幅に不足」の割合の合計が85.1%(DX動向2025 本編 3.2節・図表3-1)
