産業機械の保守・サービス部門の方から、こんなお話を伺ったことがあります。お客様から不具合の連絡を受けたとき、まず確かめたいのは「電気系か、機械系か」だと言います。そこがはっきりすれば、見るべき場所も、案内すべき手順も大きく変わってくる。けれども、その最初の見極めをどう整理して人に渡せばいいかが分からず、作業動画も順番や流れを意識しないまま撮りためている状態でした。第1段階でお客様から情報を受け取り、次の段階へ、さらにその次へと、症状に応じて参照先を枝分かれさせていく形にしたい。そう考えてはいるものの、設計の入口でつまずいていたのです。
この「まず電気系か機械系かを見る」という見極めは、たいていベテランの頭の中にあります。音やにおい、表示の出方を手がかりに当たりをつけ、確かめるべき場所へ最短で向かっていく。その判断はとても速くて確かなのですが、本人にしか辿れないという弱点を抱えています。本人が席を外している時間帯に同じ不具合が起きると、担当者やお客様は止まったまま待つことになってしまいます。
この記事では、その「頭の中の判断」をトラブルシューティングの分岐フローとして外に出し、症状から確認箇所へ枝分かれで案内する手順書に落とす設計の考え方を整理します。動画で確認動作を見せる工夫や、直し方だけでなく判断の根拠まで残す方法もあわせてご紹介します。保守やサービスを担う方が、ベテランの見極めを部門の財産として残していくための道筋として読んでいただければと思います。
故障対応が属人化する理由
故障対応がベテラン頼みになりやすいのには、いくつか理由があると考えています。まず、不具合は毎回まったく同じ形では起きません。症状の出方が少しずつ違うため、決まった一本道の手順では捉えきれず、その場の判断で進める部分が大きくなります。こうした、状況に応じて判断が要る対応は非定型業務に近い性質を持っていて、定型の手順書だけでは扱いにくいところがあります。
次に、判断の根拠が言葉になっていないという問題があります。ベテランは「この音がしたらまずここ」と分かっていても、それを聞かれて初めて言語化することが多く、ふだんは手が先に動いてしまいます。説明する機会がないまま時間が過ぎ、知識は本人の中にとどまったままになっていきます。
属人化は、知らないことよりも、分かっている人が説明する場を持てないことから生まれていると、私たちは考えています。だからこそ、判断の枝分かれを書き出して見える形にすることに意味があります。
さらに、対応の記録が「直りました」で終わってしまうことも多いです。どこを疑い、何を確認して、なぜその原因だと判断したのか。その途中の道筋が残らないと、次に似た不具合が起きても、また一から勘に頼ることになります。直した結果だけでなく、たどり着くまでの判断を残すことが、属人化を解く鍵になります。
症状から原因を「分岐」で整理する
ベテランの判断は、実のところ枝分かれの連続です。最初の手がかりとなる症状から始まり、確認した結果に応じて次に見る場所が変わっていきます。この枝分かれを、入口の症状を起点に書き出していくと、頭の中の地図がそのまま分岐フローになります。
症状によって、電気的な問題ならこちら、機械的な問題ならこちらと、見てもらう手順を分けて案内したいんです。一本の長い動画ではなくて、ケースごとに別の手順を行き来できる形にしたくて、と保守・サービス部門の方が話してくださいました。
私たちはこの「行き来できる形」こそ、分岐フローの出発点だと考えています。
たとえば設備が動かないという症状なら、最初の分かれ道を「電気系か機械系か」に置きます。表示が消えている、操作盤が反応しないといった様子なら電気系の枝へ進み、電源やブレーカー、配線の緩みを順に確かめていきます。表示は出ているのに動きがおかしい、異音がするといった様子なら機械系の枝へ進み、可動部やベルト、詰まりの有無を見ていきます。一つの確認が次の枝を選び、最後には確認すべき箇所までたどり着く形です。
枝分かれの作り方のコツ: 一度に細かく枝を増やそうとせず、まず「電気系か機械系か」のような大きな二択から始めると整理しやすくなります。それぞれの枝を進めながら、現場で実際に分かれる判断点を足していくと、無理なく育てられます。
このとき大切なのは、それぞれの枝で「何を見て、どう判断するか」をはっきりさせることだと考えています。「異音がする」だけでは人によって受け取り方が変わってしまいます。「どこから、どんな種類の音がするか」「動かしたときか、止めたときか」まで分けて書くと、初めて対応する人でも同じ枝を選びやすくなります。こうして症状を起点に整理した枝分かれは、そのまま手順書の骨組みになります。
分岐を手順書に落とす(動画で見せる)
枝分かれの骨組みができたら、次はそれを誰でも辿れる手順書にしていきます。ここで難しいのが、文章だけでは確認動作が伝わりにくいという点です。「配線の緩みを確認する」と書いてあっても、どこの配線を、どの向きから、どう触って確かめるのかは、言葉だけではなかなか再現できません。こうした確認の所作は、実際に確認している様子を動画で見せると一気に伝わりやすくなります。
Flowbaseは、その確認動作を実際にやっている画面を録画するだけで、AIが手順とスクリーンショット、説明文をそろえた手順書を自動で組み立てます。枝ごとの確認手順を一つずつ録画していけば、症状から確認箇所へ向かう一連の流れを、見て辿れる形に残していけます。手順ごとに編集や撮り直しもできるので、現場の手順が変わったときには、その枝だけを差し替えて最新の状態を保てます。
確認動作は、見せると伝わります。分岐の各ステップに、実際の確認の様子を添えておくと、初めての人でも「ここを、こう確かめればいい」と動きをそのままなぞれます。文章で言い尽くそうとして長くなりがちな説明を、短い動画の一場面が肩代わりしてくれます。
枝分かれの数が増えても、Flowbaseはバージョン管理に対応しているので、いつ・どこを直したのかを追いながら更新を重ねられます。共有用にまとめて配りたいときは、PPTX形式で書き出して、研修や朝礼の資料として使うこともできます。手元に置いた業務マニュアルとして残しつつ、配布物としても活用しやすくなります。
顧客や取引先に渡して問い合わせを減らす
こうして整えた分岐フローは、社内だけでなく社外へ渡す使い方もできます。メーカーの方から、自社製品のトラブル対応手順を、お客様や販売店(ディーラー)にも提供したい、というお話を伺うことがあります。症状別の枝分かれをそのまま社外にも分かりやすく渡せると、まず自分で切り分けて試してもらえるようになり、同じ問い合わせの一次対応が軽くなるという声をいただきます。
社外へ渡すときに気になるのが、渡し方です。Flowbaseは、アカウントを持っていない相手にもURLで共有でき、必要に応じてパスワードで保護もかけられます。相手に会員登録を求めずに、見てほしい手順だけを届けられる形です。社外への渡し方や、渡す前に整えておきたい観点は、顧客や取引先に渡すマニュアルの記事で詳しくご紹介しています。
判断の理由まで残す
分岐フローと動画がそろうと、確認の手順はかなり辿りやすくなります。それでもう一段、属人化を解くために残しておきたいのが、判断の理由です。「なぜこの枝を選んだのか」「なぜこの音だと電気系を疑うのか」という根拠まで添えておくと、手順をなぞるだけでなく、似て非なる症状に出会ったときの応用が利くようになります。
理由は、手順の説明文に短く添えるだけでも十分に役立ちます。「ここを先に見るのは、ここが原因になることが現場で多いため」といった一言があるだけで、次に対応する人の納得感が変わってきます。直し方は枝の手順が教えてくれますが、なぜその順で確かめるのかという考え方は、根拠の一文が引き継いでくれます。
残し方のコツ: 判断の理由は、対応が終わった直後にひと言だけ書き足すのがおすすめです。時間が経つと「なんとなくそうした」に丸まってしまいます。新しい不具合に対応するたびに、その枝に理由を一行ずつ足していくと、フローが少しずつ賢くなっていきます。
また、書き残した手順書は、Flowbaseのチャットから検索したり質問したりできます。「異音がするときの確認順は」と尋ねれば、関連する枝の手順を引き出せるので、現場でとっさに思い出したいときにも辿りやすくなります。ベテランの頭の中にあった枝分かれと、その判断の理由が、誰でも開ける手順書として現場に残っていく形です。設備が止まったときに待つのではなく、手順書を開いて自分で進められる職場へ、少しずつ近づけていけると考えています。
よくある質問
Q分岐フローは、最初から細かく作り込む必要がありますか?
最初から完成形を目指さなくて大丈夫だと考えています。まずは「電気系か機械系か」のような大きな二択から始め、実際の対応のたびに、現場で分かれる判断点を一つずつ足していく進め方がおすすめです。Flowbaseは手順ごとの編集や撮り直しに対応しているので、後から枝を足したり差し替えたりしながら育てられます。
Q確認動作を動画で残すと、文章の手順書より準備が大変になりませんか?
かえって楽になる場面が多いと考えています。Flowbaseは確認している画面を録画するだけで、AIが手順とスクリーンショット、説明文をそろえて組み立てます。文章で細かく書き起こす手間が減り、言葉では伝えにくい確認の所作も、動画の一場面でそのまま見せられます。
Q直し方だけでなく判断の理由まで残すのは、手間がかかりませんか?
理由は、手順の説明文に一行ずつ添えるだけで十分に役立ちます。対応が終わった直後に「なぜこの順で確かめたか」をひと言書き足す習慣にすると、無理なく蓄積できます。残した手順書はチャットから検索や質問もできるので、現場で必要なときに引き出しやすくなります。