「手が空いたときに、マニュアルを作っておいてもらえる?」という頼み方を、現場でよく耳にします。新しい人が増えたり、引き継ぎが必要になったりして、いざマニュアルが要るとなったとき、専任を立てるほどではないからと、誰かの「空いた時間」をあてにするのです。悪気があるわけではありません。けれど私たちは、この頼み方こそがマニュアル整備をうまくいかなくしている、大きな理由のひとつだと考えています。
マニュアル作成は「片手間でできる軽い仕事」だと思われがちですが、実際には整理して、書いて、直すという相応の工数がかかる作業です。それを「空いた時間で」と扱った時点で、無理のある前提に立ってしまっています。
この記事では、なぜ「空いた時間で作っておいて」がマニュアル整備を失敗させるのかを、データもふまえて整理し、どうすれば実際の作業に組み込めるのかをお話しします。
そもそも「空いた時間」は生まれない
最初の問題は、とてもシンプルです。多くの現場で、まとまった「空いた時間」はそもそも生まれません。日々の業務は途切れずに続き、手が空いたように見えても、たいていは別の急ぎの用事で埋まります。優先順位を付けたとき、締め切りのある仕事が先に来て、締め切りのないマニュアル作成は後ろへ回ります。
しかも、マニュアルづくりは細切れの時間に向きません。少し進めては中断し、また思い出すところからやり直す、というのを繰り返すと、かえって時間がかかります。「空いたらやろう」と思っているうちに、いつまでも着手されないまま放置される、というのは、決してその人のやる気の問題ではないのです。
作成には、思っているより工数がかかる
もうひとつの問題は、マニュアル作成にかかる工数が、頼む側の想像よりずっと大きいことです。
Flowbaseが2026年3月に実施した自社調査(スクリーニング6,000名・本調査600名)では、マニュアルの作成・更新に月8時間以上をあてている作成者が29.7%にのぼりました。そのうち月20時間以上をかけている人も8.0%います。月8時間といえば、ほぼ丸一日分です。これだけの時間が必要な作業を「空いた時間で」とお願いするのは、最初から無理があります。詳しくは業務マニュアル作成実態調査2026をご覧ください。
負担の中身を見ると、なぜ時間がかかるのかが見えてきます。最も負担が大きい工程として挙がったのは「文章を書く・編集する」が28.7%、続いて「整理・構成を考える」が26.3%でした。つまり、手を動かして書く前の「どう並べるか」を考える段階と、実際に文章にする段階の両方が重いのです。どちらも頭を使う作業で、片手間の細切れ時間ではなかなか進みません。
その結果として、課題に「作成・更新に時間がかかりすぎる」を挙げた人が39.3%、現状の作成・管理方法に「不満」と答えた人が45.0%にのぼっています。半数近くが今のやり方に満足できていないという事実は、マニュアル作成が軽い仕事ではないことをよく表しています。
ここがすれ違いの起点: 頼む側は「ちょっと書いておくだけ」と考え、頼まれた側は「構成から考えて書いて直す丸一日仕事」と感じています。この認識のずれを放置したまま「空いた時間で」と頼むと、お互いに不満が残ります。
「タダ仕事」扱いが招くもの
工数のかかる作業を「空いた時間で」と頼むことは、その仕事を実質的に「タダ仕事」として扱うことにつながります。正式な業務時間として認められず、評価にも反映されにくい。すると、現場では自然と次のようなことが起こります。
ひとつは、後回しです。締め切りもなく、評価もされない作業は、どうしても他の仕事の後ろへ回ります。「大事だ」と言われながら扱いは軽い、という矛盾した状態が続き、いつまでも着手されません。ソーシャルリスニングでも、「大事だと言われるのに、空いた時間でと軽く扱われる」という現場の不満が見られます。言葉の上での重要度と、実際の扱いが噛み合っていないのです。
もうひとつは、形だけのマニュアルです。正式な時間が割けないまま無理に仕上げると、構成を練る余裕がなく、断片的なメモの寄せ集めになりがちです。そうしてできたものは結局使われず、また口頭で教え直すことになります。軽く扱った分だけ、成果も軽くなるというわけです。
解き方は、独立タスクにせず実作業に組み込むこと
では、どうすればよいのでしょうか。私たちが大切だと考えているのは、マニュアル作成を「あとでまとめてやる独立した仕事」として切り出すのをやめ、ふだんの実作業の中に組み込んでしまう、という発想の転換です。
ここで一例として、録画を使う方法をご紹介します。考え方はシンプルで、新しい人に教えるときや、自分が実際に作業するときに、その様子を画面録画しておく、というものです。教える行為や作業そのものは、もともと発生している業務です。そこに録画を一つ足すだけなら、新たにまとまった時間を確保する必要はありません。
録画があれば、それを下書きとして使えます。ゼロから構成を考えて文章を書き起こすのではなく、すでにある作業の記録をもとに整えていくため、最も負担の大きかった「整理・構成を考える」「文章を書く」工程の出発点を、手ぶらではなく持っている状態から始められます。Flowbaseは、こうした録画を手がかりに、マニュアルの下書きへとつなげる使い方を想定したツールです。あくまで一例ですが、「空いた時間で書く」前提を、「ふだんの作業のついでに残す」前提へ置き換える、という発想です。
マニュアル作成を失敗させているのは、担当者の能力でも意欲でもなく、「空いた時間で」という前提そのものです。実作業に組み込めば、まとまった空き時間を待たずに進められます。
頼む側にできることもあります。「空いたときに」ではなく、マニュアル作成を正式な業務時間として位置づけ、相応の工数がかかる前提で計画に組み込むことです。軽い仕事として扱うのをやめるだけで、後回しと形骸化の悪循環からは抜け出しやすくなります。なお、録画などで作成が軽くなることは、その分を無償で押し付けてよいという意味ではありません。あくまで、かかる手間そのものを減らして、現場の負担を軽くするための工夫です。
よくある質問
Q少人数で、専任を置く余裕がありません。それでもマニュアルは整備できますか?
専任を置けないからこそ、独立した作業として切り出さず、ふだんの実作業に組み込む進め方が向いています。たとえば、教えるときや作業するときの様子を録画して下書きにすれば、まとまった空き時間を確保しなくても少しずつ整備できます。「空いた時間でやる」前提を外すことが出発点です。
Qマニュアル作成に、実際どのくらいの時間がかかるものですか?
作業内容や対象範囲によって幅がありますが、Flowbaseが2026年3月に実施した自社調査(スクリーニング6,000名・本調査600名)では、作成・更新に月8時間以上をあてている作成者が29.7%、月20時間以上の人も8.0%いました。片手間で終わる軽い作業ではなく、相応の工数がかかる前提で計画することをおすすめします。
Qなぜ「空いた時間で」と頼むと、いつまでも進まないのでしょうか?
締め切りのある仕事が優先され、締め切りのないマニュアル作成が後ろへ回るためです。加えて、構成を考え文章を書く工程は頭を使う作業で、細切れの空き時間には向きません。担当者のやる気の問題ではなく、前提の置き方の問題だと私たちは考えています。