ある金属加工の現場で、作業標準づくりや新人教育を担う担当の方からこんな声をいただいたことがあります。自分たちの職場には独自の専門用語があり、AIに任せたときにそれが無理に言い換えられてしまわないか不安だ、というものでした。同じような不安は、独自工法を持つ建設の現場でも聞かれます。工法名や材料名など専門用語の多い独自工程を、AIでうまく手順書にできるのだろうか、という戸惑いです。
業種は違っても、悩みの芯は共通しています。現場で長く使われている専門用語や、その会社にしか通じない略語は、業務の効率を支える共通言語でもあります。だからこそ、AIで生成した文章が「自分たちの言葉に合うのだろうか」という不安が生まれます。
専門用語や社内の暗黙知は、属人化と表裏一体です。Flowbaseが2026年3月に実施した自社調査(スクリーニング6,000名・作成者300名)では、暗黙知や「その人にしか分からない業務」が「多い」職場が74.7%、「特定の担当者しか知らない業務・手順がある」と答えた人が58.0%でした。詳しくは業務マニュアル作成実態調査2026をご覧ください。
先にお伝えしたい考え方は、ひとつです。AIには土台を素早く作ってもらい、用語や言い回しは現場の言葉へ人が直す、という分担で進めるのが現実的だと私たちは考えています。完全な自動化を目指すのではなく、速く形にする部分と、職場になじませる部分を切り分けることで、専門用語の多さは弱点ではなくなっていきます。
専門用語が多いことは、AIで手順書を作る妨げにはなりません。AIで下書きを素早く用意し、現場の言葉へ整える工程を分けて持つことで、むしろ作成の負担を軽くできます。
専門用語が多い現場の不安
専門用語や社内略語が多い現場では、ベテランの頭の中に暗黙知として手順がしまわれていることが少なくありません。口頭で教えたり、目で見て覚えたりする伝え方が中心で、言葉そのものに、その会社ならではの意味や経緯が込められています。そのため、外から来た人やツールがそのまま言い換えてしまうと、ニュアンスがずれてしまう心配があります。
ここでよく聞かれる不安を整理すると、おおむね次のようなものです。
- 略語が一般的な言葉に置き換えられて、職場でかえって通じなくなるのではないか
- 同じものを指す呼び方が複数あり、文章ごとにばらついてしまうのではないか
- 専門的な手順の意図が、平易に書き直されることで薄まってしまうのではないか
これらはどれも、もっともな心配です。実際、ある現場の担当の方からは、専門用語を無理に訳したり、勝手に置き換えたりしてほしくない、という率直なご要望をいただきました。用語の扱いを自分たちでコントロールしたい、という気持ちは自然なものです。
現場の専門用語は、無理に言い換えてほしくないのです。一般的な言葉に直されるより、自分たちが普段使っている呼び方のまま残せる方が、現場では伝わります。
こうした不安は、いずれも「AIが最初から完璧な最終稿を出す」ことを前提にしたときに大きく感じられるものだと言えます。AIの役割を下書きづくりにとどめて、現場の言葉に合わせる工程を人が受け持つと考えれば、不安はずっと扱いやすくなります。
AIで土台を作り、言葉を現場に合わせる
Flowbaseでは、画面録画や動画を取り込むと、生成AIが操作の手順、各ステップのスクリーンショット、説明文をまとめた手順書の下書きを自動で作ります。動画の中の発言や字幕、タイトルといった手がかりからAIが内容を読み取って組み立てるので、まずはこの下書きを土台として受け取り、そこから現場の言葉へ寄せていく流れになります。
具体的な進め方は、次のようなイメージです。
- 実際の作業を画面録画して取り込み、手順書の下書きを自動生成する
- 生成された説明文に目を通し、専門用語や略語が一般化されている箇所を見つける
- その箇所を、現場で実際に使っている呼び方や言い回しへ書き直す
- 必要に応じてステップを撮り直したり、説明を補ったりして仕上げる
ここで大切なのは、書き直しを「手戻り」とは捉えないことです。ゼロから文章を起こす作業に比べれば、下書きを直す作業はずっと軽く済みます。AIが手順の骨格とスクリーンショットをそろえてくれているので、人は言葉のニュアンスを整えることに集中できます。
ポイント: AIの出力をそのまま正解として扱わず、「現場の言葉に直す前提の下書き」と位置づけてください。最初からこの前提で運用すると、用語のずれを見つけても落胆せず、淡々と整える流れができあがります。
手順ごとに編集できることや、説明文を書き換えられること、ステップを撮り直せることは、まさにこの「現場の言葉に合わせる」工程のためにあります。専門用語については、AIが自動で社内の意味どおりに変換してくれるとは限らないため、最終的に人が確認して整える運用にしておくと安心です。専門用語を無理に訳してほしくない、という現場の声に応えるうえでも、人が最後に言葉を確かめられる進め方は理にかなっています。
用語をそろえて手順書をブレさせない
専門用語の言い換えを毎回その場の判断で行っていると、同じものを指す言葉が文書ごとに変わってしまい、読み手が混乱しやすくなります。そこで効いてくるのが、よく使う表現を社内であらかじめそろえておくという考え方です。これは手順書づくりにおける標準化の一部だと言えます。
たとえば、ある作業や機能を指す呼び方が複数あるなら、「文書ではこの呼び方に統一する」と決めておきます。略語を使う場合は、初めて出てくる箇所で正式名称を添える、といった書き方のルールをそろえておくと、誰が手順書を整えても表現がぶれにくくなります。担当者が普段使っている言葉を基準に据えると、読み手にとって直感的に分かりやすい手順書になります。
言葉をそろえる作業は、一度決めてしまえば次からの負担がぐっと減ります。AIが作った下書きを現場の言葉へ直すときも、「どの言葉に統一するか」がすでに決まっていれば、確認と修正の判断が速くなります。社内で表現の決めごとを少しずつ蓄えていくことが、手順書全体の読みやすさを支えます。
こうしてそろえた言葉づかいは、複数の手順書をまたいで一貫させることにもつながります。バージョン管理を使って手順書を更新していくときも、表現の基準が定まっていれば、改訂のたびに言葉がばらつく心配が減ります。チャットで手順書を検索したり質問したりするときも、呼び方がそろっていれば目的の手順にたどり着きやすくなります。
人とAIの役割分担
ここまでの流れを役割分担として整理すると、AIと人が受け持つ範囲がはっきりしてきます。
AIが得意とするのは、録画や動画から手順とスクリーンショット、説明文の下書きを素早くそろえることです。これまで時間のかかっていた最初の組み立てを、短い時間で形にしてくれます。一方で、専門用語の含みや、現場ならではの言い回しの機微を最終的に判断するのは、その業務を知っている人です。この記事の冒頭でふれた金属加工や建設の現場のように、独自の言葉が業務の核になっている職場ほど、この「人が言葉に責任を持つ」工程が効いてきます。
AIは手順書の土台を速く作る担い手であり、人は現場の言葉に責任を持つ担い手です。この役割分担をはっきりさせることで、専門用語の多い現場でも安心して手順書づくりを進められます。
この分担で進めると、作る人の負担は下書きの確認と言葉の調整が中心になり、ゼロから書き起こす重さから解放されます。仕上がった手順書はPPTXに書き出して共有することもできますので、できあがったものを配る場面でも扱いやすくなります。専門用語や略語の多さを、AIで一気に解消しようとするのではなく、AIで速く土台を作り、人が現場の言葉で仕上げる。この協働こそが、専門性の高い現場で手順書を根づかせる現実的な道だと、私たちは考えています。
よくある質問
Q社内独自の略語は、AIが自動で正しく変換してくれますか?
略語の意味は会社ごとに異なるため、AIが自動で社内の意味どおりに変換すると断定することはできません。AIが作った下書きに目を通し、現場で使っている呼び方へ人が整える運用をおすすめします。よく使う略語の書き方を社内でそろえておくと、確認と修正がより速く進みます。
Q専門用語が多いと、AIで手順書を作るのは難しいのではないですか?
専門用語が多いこと自体は、妨げにはなりません。AIには手順とスクリーンショット、説明文の下書きづくりを任せ、用語や言い回しは人が現場の言葉へ直す、という分担で進めると、ゼロから書き起こすよりも負担を軽くできます。
Q現場の言葉に直した手順書を、ぶれずに保つにはどうすればよいですか?
同じものを指す呼び方や略語の書き方を、社内であらかじめそろえておくことが役立ちます。表現の基準が決まっていれば、誰が手順書を整えても言葉がばらつきにくくなり、更新を重ねても読みやすさを保ちやすくなります。